矯正歯科の基礎知識
なるべく歯を抜かずに矯正治療をおこないたいのは、歯科医師も同じです。なぜ歯を抜くのか、歯を抜かずにできるのはなぜなのかをよく理解し、最良の結果を得られる治療法を慎重に選びましょう。
「抜歯でも非抜歯でも、どちらでも矯正治療が可能」と診断された場合、どちらを選ぶべきでしょうか。
この判断のためには、「何のために矯正をおこなうのか」がとても重要になります。
■「とにかく歯のデコボコが治って真っ直ぐに並べばそれでよい」
と思われるか、
■「口元や顔全体がバランスのとれた美しい状態になりたい」
と思うのかの違いです。
実際に、非抜歯矯正で歯は一列に並んだけれど、歯列が拡大されて口全体が突出してしまい、顔貌が悪くなってしまった、という例は後をたちません。俗に「カッパ矯正」などと呼ばれ、再治療を望む人が多いケースです。
抜歯矯正と非抜歯矯正では、適するお口の状態(症状)が異なります。どんなお口の人でも抜歯をせずに治療ができるとは限りません。
歯科医院によっては、治療方針を決める段階で、抜歯治療した場合の結果と、非抜歯治療での結果をシミュレーションして見せてくれるところもありますので、治療結果をよく考えて、本当に希望している結果となる方法を選ぶことが大切です。
歯並びが悪い原因は、そもそも歯が並ぶスペースが足りないためですので、非抜歯での治療は無理なケースも少なくありません。非抜歯治療が可能な場合でも、歯列を拡大する方式の場合は、どうしても歯が前に出て口元の突出感が残る場合が多くなります。
抜歯で治療をおこなう場合は、口元の突出感といった問題は解決され、横から見た口元が美しくバランスのとれた顔貌をつくることができます。
矯正治療をおこなう歯医者さん自身も、なるべくなら歯を抜きたくないと考えています。
では、抜歯をしない矯正の方が抜歯をする矯正より優れていて、患者さんのためになる治療法かというと、必ずしもそうではありません。非抜歯矯正の方が適している患者さんもいらっしゃいますし、抜歯をおこなわなければ仕上がりの口元や噛み合わせに支障が出てしまうようなお口の患者さんもいらっしゃいます。
下記の3人の方は、いずれも最初は非抜歯で矯正をおこなったけれど、治療結果に満足できず、転医して再度抜歯で治療をし直した方の症例です。非抜歯矯正が不十分だったために、歯列が前に飛び出したり、上下の歯の間に隙間ができてしまったりしています。
転医時と再治療後の口元の変化をご覧ください。突出感や噛みあわせが大きく改善しているのがお分かり頂けると思います。
(注)上記の症例は、非抜歯治療には適さない症状で当初非抜歯治療をおこなったために、再治療が必要となったケースです。軽度のデコボコなど非抜歯治療でも対応できることもあり、どちらが適するかは症状によって異なります。
上の例を見て頂ければわかるように、「非抜歯でも治療ができる」ということと、満足のいく治療結果になることは全く別です。「歯を一列に並べる」ことだけを矯正治療の目的だと考えれば、非抜歯矯正に適さない方でも非抜歯で治療できますが、実際に歯が並んで治療終了してみたら思っていたのとは違った。顔貌が悪くなってしまい、やり直したい・・・そんな後悔をしないためには、治療開始前に信頼できる矯正歯科医院でしっかりと検査をおこない、仕上がりの口元全体の状態を予想したうえで適切な治療計画を立てることがとても大切です。
歯を抜くことに不安を持つ方も多いと思いますが、長い期間と多くの費用をかけて矯正をおこなうのですから、治療結果が満足のいくものになるよう、必要であれば勇気をもって抜歯を選択することをお薦めします。