入れ歯や、インプラント、被せものといったものは、所詮人間がつくったものですから、その患者さんの機能にあわせてミクロン単位までつくるというのは、絶対に不可能です。だからこそ、基本となる「中心位」に患者さんのかみ合わせを誘導し、そこに、きちんとしたかみ合わせをつくる、という咬合学の手法が必要になるのです。ですが残念ながら、中心位に誘導し、きちんとしたかみ合わせをつくるという技術をもっている歯科医師は、全体の3%にも満たないのが現状です。歯科医療の本来の目的は、虫歯のところだけを治療をすることではなくて、快適なかみ合わせをつくるということだと、私は信じています。きちんとかみ合わせを調整していない詰めもの、被せもの、入れ歯、インプラントなどは、すべて生身のからだにとって害となるものです。ですが、わたしたちのからだは、その環境に、なんとか適応しようとします。その代償として、歯や顎関節がトラブルを抱えてしまうことになるのです。「適応」の裏には「代償」があります。患者さんに「適応」してもらったのだとしたら、その歯科医師は、患者さんの歯を治したのではなくて、壊したのです。医療に携わるかぎりは、医師が加害者になってはいけないと自らを戒めながら、咬合学の観点から、患者さんのからだに適合した治療をおこなっています。